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カイヤナイトを捧ぐ

伊折

 グランドラインの海中を一羽の黄色い燕が飛び回る。武骨な金属でできた胴部分には黒いラインと橙色で塗られたまるで歯車の様なジョリーロジャーが描かれている。その燕の名はポーラータング号。北の海からやってきたハートの海賊団の潜水艦である。
「キャプテン、そろそろ次の島に着きそうだよ」
 操舵室のテーブルに広げられた海図をつぶらな瞳で見つめていたシロクマが口を開いた。
「次ってどんな島なんだろうね」
 メスのシロクマ居るかな?と何処か期待を持った面持ちで斑模様のある帽子を被ったソファーに身体を沈めている男に向ける。その言葉は隣に立っていた明るい髪色にキャスケットを被っている男、シャチが答えた。
「ベポ、次は砂漠だからシロクマは絶対ェに居ねーよ」
「えー居ないの?」
 サングラスで隠れている瞳の色を伺い知ることはできぬが、がっくりと肩を落としたベポを楽しそうに眺め笑っていた。
 ログポースが指し示す航路を進むのは、この〝偉大なる航路〟においては海上を進むガレオン船だろうと海中を進む潜水艦だろうと例外はない。
 グランドラインにはいり、とある一本の航路を選んだハートの海賊団は、幾つかの島を経由して次にログポースが指し示す島||サンディ島へと船を進めていたのであった。
「砂漠っていったいどんなところなんだろうね」
「乾燥した土地で日中は非常に高温になるが、日が沈むと放射冷却が激しく、急激に冷えて一日の寒暖差が30度以上はザラらしいな」
 気を取り直したベポの言葉に、それまで口を閉ざしていたこの船のキャプテンであるトラファルガー・ローが口を開く。
「え、暑いの!?」
 メスのシロクマが居ないと言われたとき以上に衝撃を受けているベポに追い討ちをかけるように続ける。
「あぁ、45度は普通に越えたりするみたいだ。夜は一桁になることもあるらしいからベポは日が沈んでから外に出た方が良いだろうな」
 項垂れる相手にローはニヒルな笑みを浮かべて頭を撫でてやる。撫でる手に圧を掛ければ深く沈んで掌が毛に埋もれる。ふわふわとした手触りの良い毛並みを堪能していると、撫でられるのが気持ちいいのかベポがすり寄ってきてローの顔が自然と綻んだ。そんなリラックスモードに入った二人の行動に慣れた様子のクルーはその光景に癒されながら、静かに各自の持ち場へと戻るのであった。
 航海を進めること数刻、目的の島に着いたハートの海賊団は船を浮上させて商船に紛れるようにして港につけた。長い間潜水していた為、久々の太陽の下にクルーたちは我先にと甲板へと出る。


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