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ホワイトラブラドライトを施す

なないろ

 彼の張り詰めた神経に、何かの気配が引っかかる。すぐさま全身を砂に変えて身を隠した。彼の姿が消えてすぐ、あるものが壁にふわりと花開くように現れた。人の耳だ。それと同時に、壁をすり抜けて炎のような、骸骨のような、不可思議な何かが目の前を通り過ぎる。すぐに察しが付く。能力者だろう。人魂のような何かは知らないが、もう一つの方はクロコダイルにも覚えがあった。かつて、アラバスタでバロックワークス社を経営していた時に手を組んだ女、ハナハナの実の能力者、ニコ・ロビン。麦わらの一味がこの島に上陸している。
 見覚えのある顔が新聞の一面を飾ったことは、まだ記憶に新しい。麦わらのルフィ。二年前、クロコダイルの野望を打ち破った男。そして、彼に再び希望を抱かせるきっかけになった男。
 それと、新聞に載っていたのはもう一人。
 麦わらのルフィと同盟を組んだとされる海賊であり、元〝王下七武海〟トラファルガー・ロー。クロコダイルは彼を知っていた。直接会ったことがあるわけではない。ただ、話には聞いている。
 最悪の世代の海賊達が得てしてそうであるように、彼もまた、話題に絶えない男だった。政府に生きた海賊の心臓を100個送りつけた狂気の男。ロッキーポート事件の首謀者。そしてつい最近、麦わらの一味と同盟を結び、王下七武海から除名された。彼に再びついた懸賞金は、その額なんと五億ベリー。そう簡単に付く金額ではない。もちろん、懸賞金の額が単純に強さを表すわけではない。クロコダイルのように海軍にその危険性を気取られぬ内に王下七武海になった例もある。懸賞金とは、政府がどれだけ危険視しているかの指標でしかない。だが、それもまた、一つの判断材料にはなり得る。それだけ政府に危機感を抱かせることができる力量であることを示すのだから。特に、ハートの海賊団はこれまで民間人への被害をあまり出していない。にも関わらずそれだけ高額な賞金首であるということは、理由は一つ、政府がその力量を恐れていることに他ならない。実力は確かだろう。
 そして、クロコダイルはもう一つ、男について知っていることがあった。彼はおそらく、ドフラミンゴとなんらかの繋がりがある。それも、ドレスローザの玉座からあの男を引き摺り下ろし、海底の大監獄に墜とすほどの何かが。麦わらの一味とハートの海賊団の同盟がドフラミンゴを討ったと新聞には書かれていたが、話を持ちかけたのは十中八九トラファルガー・ローだ。
 さらに言えば、今ここにニコ・ロビン含む麦わらの一味が現れたことにも、何かしらローが一枚噛んでいそうだ。そもそも、裏の社会の一端を知るニコ・ロビンがいるとはいえ、あの一味がこれほど早く地下にたどり着くとは思えない。となると、可能性は一つ。ここまで彼らを導いた者がいる。
 なるほど、表のお宝争奪戦に名前が挙がらないわけだ。
 クロコダイルはにやりと上げた口角を隠すように、砂となって空気に溶けた。


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